2024年10月
比嘉洸太さん(第12回ルーマニア国際音楽コンクールピアノ部門第2位)にインタビューをし、とても貴重なお話を伺うことが出来ました。
ルーマニア国際音楽コンクールとの出会い
嶋田(以下S):お久しぶりでございます。今日はお忙しい中、事務所に来て頂きありがとうございます。
比嘉(以下H):実はすぐ近くのインターナショナルスクールにピアノを教えに来ています。本日はこのような機会を作って頂きありがとうございます
S:こちらこそありがとうございます。早速ですが、「ルーマニア国際音楽コンクール」を受けたきっかけを教えて頂きたいのですが。
H:僕がこのコンクールを受けたのは8年前の第12回ですが、実は第2回の頃からその存在を知っていました。というのも、僕の出身地沖縄で、当時沖縄県立芸術大学に在学中の榎本玲奈さんがグランプリを受賞していたからです。僕が中学か高校1年生の頃で、沖縄の新聞に榎本玲奈さんとコンクールの記事が載っていたのを今でも鮮明に覚えています。
S:そうでしたか。今年で20回目の記念コンクールが終了し、比嘉さんが参加した12回からも10年以上経っていますね。でも、2回目から知っていながら、12回まで参加に時間がかかったのには、何か理由があるのですか?
H:実は音楽大学の受験時期から手が思うように動かず、練習不足かと思いさらに練習を重ねていました。
それでもなんとか合格しましたが、入学後は症状が悪化し、つらい日々を過ごしていました。病名が判明してからは奏法を見直し、大学4年頃からようやく改善してきたという状況です。
S:それは大変な学生時代でしたね。
H:まず最初にド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドという単純なスケールが弾けなくなり、次にアルページオ(分散和音)、その後は和音まで弾けなくなり、絶望的な学生生活を送っていました。まさか卒業後に「ルーマニア国際音楽コンクール」を受けて受賞するなんて、まったく想像していませんでした。
S:完治されたのですか?
H:はい、今はもう大丈夫ですが、身体のメンテナンスには気を遣うようになりました。ピアノは座った姿勢での練習が多いため、負担がかかりやすいです。無理のない体の動きを常に意識し、その重要性を実感しています。
S:身体のメンテナンスは大事ですね。
現在の活動
S:続いて現在の活動をお聞きします。
H:現在は演奏と教育、その二つを軸にしています。教育活動にも楽しさや豊かさを感じ始めています。その合間に年数回のコンサートに集中する、このスタイルが自分に合っていると思います。
S:生徒さんはお子さんですか?
H:4歳から受験生まで、アマチュアの方や専門家もいらっしゃいます。ここのそばにあるインターナショナルスクールでも子ども達にピアノを教えています。
S:そうだったのですか。それではもっと事務所に遊びに来てくださいね(笑)。
2021年、ルーマニア外交関係樹立100周年とジョルジェ・エネスク生誕140周年を記念して開催した日本とルーマニアの文化交流コンサートに、3年連続でご出演いただきありがとうございます。どんな魅力を感じて参加してくださっていますか?
H:ありがたいのは、いつも素晴らしい会場をご用意してくださっていることです。
また、ここ数年は僕自身がずっと惹かれていた20世紀の作品を演奏することに重きをおいており、僕がプログラムで作り出したい世界を貴協会のコンサートは快く受け入れてくださることにもとても感謝しています。
S:ルーマニアが世界に誇る作曲家、ジョルジェ・エネスクやルーマニア出身のジェルジュ・クルターグの作品などを演奏して頂き、日本の皆さまに聴いて頂けることを大変嬉しく思っています。
H:観客の皆様にとって馴染みのない曲も多いため、「もっと有名でわかりやすい曲を演奏してほしい」と言われることがよくあります(笑)。そんな中で、自分の好きな作品を存分に演奏できるこのコンサートは本当に嬉しく、プログラムを組む段階からワクワクしています。
S:ありがとうございます。ルーマニア人作曲家の曲がコアな人のものだけではなく、広く一般の方に聴いて頂けると嬉しいですね。
H:実は、昨日もルーマニア出身のクセナキスの作品を聴いてきました。ピアニストの大井浩明さんが演奏されたのですが、身体が震えるほど素晴らしい演奏で、僕もぜひレパートリー加えたいと思いました。1音1音に深い意味があるように感じました。
S:そうですか!昨年のコンクールグランプリはクセナキスの作品でグランプリになり、その作品をもって10月にルーマニアへ演奏旅行に行きます。ブームが来るかもしれないですね。
比嘉さんにとって、ルーマニア人作曲家とは?
S:比嘉さんにとって、ルーマニア人作曲家とは?
H:エネスクは本当に素晴らしい作曲家だと思います。
しかし、日本ではあまり演奏されていないのが残念です。その理由としては、まず演奏が難しいということ、楽譜が日本で手に入りにくいこと、曲が難解なこと、そして東欧の音楽の響きに馴染みが薄いことなどが挙げられると思います。
S:そうですね。入賞者の皆さまにドンドン演奏して欲しいです。
H:僕もエネスクを知ったのは、コンクールを受けてからです。
S:エネスクを紹介して20年。だんだんと日本のアーティストが演奏してくれるようになりました。
H:昨年はエネスク作曲のピアノソナタ第1番を演奏させていただきました。他にも彼のピアノ曲はたくさんありますので、今後ピアノソナタ第3番や組曲なども演奏していきたいと思っていますが、特にピアノ五重奏曲はいつか必ず演奏したい作品です。本当に素晴らしい曲ですが、演奏機会が少ないのが残念で、過小評価されていると思います。
クルターグも大好きで、彼の作曲家としての発想はとても面白いです。一見、自由に音を配置しているように見えますが、実は非常に緻密に書かれていて、作品一つ一つの密度が濃いのです。そして昨日聴いたクセナキスも同様です。東欧の作曲家の作品には、独特の哀愁が漂っていますね。
S:私も同感です。ポルムベスクの「望郷のバラーダ」が天満敦子さんによって演奏されて有名になったのも、その哀愁が日本人の心に響いたからだと思います。エネスクのルーマニア狂詩曲にも同じように、日本人に通じる何かを感じますね。
コンクール審査員について
S:話は変わりますが、一昨年、子どものコンクール東京地区予選の審査員をお願いしましたが、どのような感想をお持ちでしたか?
H:実は、初めてのコンクール審査員の依頼をでした。
ここのコンクールではさまざまな楽器の審査を行い、参加者も多くて大変でしたが、審査という視点で演奏を捉える事でまた違った気づきがあり、とても興味深かったです。小さなお子さんは演奏時間が短いので、講評を書くのに必死でしたが、とても良い経験をさせていただき、ありがとうございました。その後、他のコンクールでも審査員をさせていただき、大変勉強になりました。
S:多分他のコンクールとは違う点がたくさんあるのでしょうね。
H:大人のコンクール(ルーマニア国際音楽コンクール)もそうですが、協会のコンクールは、入賞者を長い目で暖かく見守ってくださっていると感じます。現在、全国10ヶ所で地区予選を開催されていますが、今後さらに増える可能性はありますか?
S:現在、10ヶ所で開催している各地区予選を、それぞれが独自に運営できる形にしたいと考えています。それが実現したら、さらに地区予選を増やすことも視野に入れていきます。比嘉さんが沖縄出身なので、沖縄も候補に入れたいですね。
H:はい、将来的には東京だけでなく、地元沖縄にも拠点を置いて、いろいろな面で地元に貢献できたら嬉しいです。沖縄は移住者が増えており、出生率も上がっています。素晴らしい先生方も多く、ピアノ教室もたくさんあり、習っている子どもたちも非常に多いです。
S:各地で逸材の子どもたちがたくさんいることを知ることができました。沖縄は今後の開催地候補ナンバー1でしょうか。
H:はい、楽しみです。
S:地区予選の審査員は、比嘉さんにお願いしたように、「ルーマニア国際音楽コンクール」の受賞者にお願いしたいと思っています。受賞者は協会がどのような人材を求めているかを理解してくれているので、その目で子どものコンクール(ルーマニア国際ジュニア音楽コンクール)を審査して欲しいからです。
H:僕もそのお役に立てれば嬉しく思います。嶋田会長の求めるものがコンクールに反映されるコンクールになるといいですね。
S:ありがとうございます。
今後の活動や目指すものは?
S:最後に、今後の活動や目指していることを教えてください。
H:10月14日に名古屋の愛西市でリサイタルがあります。今年に入ってからアンティークピアノを弾く機会に恵まれており、今回の名古屋でもプレイエル1886年のシングルアクション(現在のピアノはダブルアクションです)を演奏します。他にも、エラールやベヒシュタイン、ニューヨークスタインウェイを弾かせていただいています。プレイエルのシングルアクションを演奏するのは初めてで、とてもワクワクしています。きっと軽やかで明るい音がすると思います。
プレイエルでショパンを弾くのではなく、あえてドビュッシー、ラベル、デュレを前半に、休憩後にリストを演奏します。1886年はリストが亡くなった年なので、リストの繊細さや宗教観、哲学的な音を探して演奏したいと思います。
今後も環境や状況が変わったときに新たな挑戦ができるよう、常に感覚を磨いていきたいです。そのためには行動しつつ、立ち止まって本当に大切なものを考える時間も必要だと思います。また、エネスクやクルターグの作品など、さまざまなレパートリーを深く理解し温めることも大事だと感じています。
S:貴重なお話をありがとうございました。今後のご活躍を期待しております。
比嘉洸太公式サイト